大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

青森地方裁判所 昭和23年(行)9号 判決

原告

佐々木才吉

被告

六鄕村農地委員会

被告

靑森縣農地委員会

主文

訴外中山喜代吉所有の別紙第一目録記載の田を訴外小田桐久太郞に、同第二目録記載の田を訴外西澤〓太郞に各賣渡す旨の昭和二十二年六月十九日附被告六鄕村農地委員会の自作農創設特別措置法に依る計画が存在せざることを確定す。

被告靑森縣農地委員会が同年九月二十前記法律に基き、訴外人原告相手方六鄕村農地委員会の間昭和二十二年訴願第七号及同第八号事件に付爲したる訴願棄却の裁判は何れも之を取消す。

訴訟費用中原告と被告六鄕村農地委員会との間に生じたる部分は同被告、原告と被告靑森縣農地委員会との間に生じたる部分は同被告の各負担とす。

請求の趣旨

主文第一項掲記の判決及予備的請求として、同計画決定は之を取消すとの判決竝主文第二項記載の如き判決を求む。

事実

原告は明治四十四年一月一日訴外中山喜代吉より同人(土地台帳上同人母訴外中山ソノヤ)所有の別紙第一、第二目録記載の水田を賃料取引又は法律上相当の金品、其弁濟期毎年十二月三十一日期間不定と定めて借受け、爾來今日に至る迄之を占有耕作し來りしところ、被告六鄕村農地委員会は昭和二十二年六月十九日自作農創設特別措置法に基き、別紙第一目録記載の水田を訴外小田桐久太郞に同第二目録記載の田を訴外西澤慶太郞に各賣渡す旨の計画を作成したりと主張し爾後の手続を追行せんとしつつあり、然れども右計画は眞実存在せず仮に存在するとするも同委員会が其前提たる買收計画に付ては公告を爲さず且一部農民の不当勢力に支配せられ、之に迎合し原告の不服申立権及耕作権を剥奪し、法律上毫も利害関係なき右訴外人兩名に賣渡すことを内容とするものなるを以て、著しく公正妥当を欠き斯法の精神に背戻するを以て、到底取消を免れず仍て原告は同年八月十日之を不服として、靑森縣農地委員会に訴願を提起したるところ、同被告は審理不盡且法規を誤解し、同年九月二十日右計画を是認し主文第二項記載の如き訴願棄却裁決を爲したり、仍て茲に請求の趣旨記載の如き判決を求むる爲本訴に及ふとと陳述したり。

理由

仍て先づ被告六鄕村農地委員会に対する本訴請求の当否に付審究するに、原告が其主張の如き水田賃貸借契約に基き同契約成立以降今日に至る迄、目的土地の占有耕作を継続し來りしこと、被告六鄕村農地委員会代表者黑瀧淸三本人訊問の結果に徴し明白にして、成立に爭なき乙第一、二号証(訴願載決)理由の部中右認定に反する部分は、右訊問の結果に照し到底首肯し難く其他右認定を左右し得べき証左一もあることなし。

而して凡そ自作農創設特別措置法は我國封建的農奴臭味を一掃し、人権の自由平等を尊重し、耕作者の地位を囘復し、農村の民主化を促進すると共に農業生産力を增展し、生民の食糧を確保し民心を安定し依て以て祖國の再興文化の向上國際平和の永劫を目図とするものなるを以て、斯法の運営就中其骨子とも謂ふべき土地買收、若くは賣渡計画樹立の如きに至りては、当該農地委員会の最高責任者たる会長たるもの其使命の尊嚴重大性を自覺し、不斷委員会に於ける主導的役割を演ずるに付萬違憾なきを期し、先づ買收又は賣渡計画前の措置として、資料の蒐集、実地の探査、利害関係人の廳問、與論、動向の注視、基礎文書の作成等、立案審議の準備を完了し、一朝委員会を招集するに至りては公明正大を期する爲、之を公開し委員の資格を審査して、自小作地主各層の委員中、一層全員の欠漏なきやを確認し、議案の説明、基礎書類の配布議事の進行、議事録の作成等形式上の運営に萬違憾なきを期し、更に各委員が豊富なる資料及墾切なる説明に基き、議案を檢覆復藏なき正論を吐露し得る樣按配するとと共に、利害関係人をして不法不測の損害を被らざしめんが爲、可級的之に参加せしめて其意見を徴し、中正妥当なる計画樹立を容易ならしめ、議決ありたるときは遲滯なく其旨公告して、利害関係人をして不服申立期間を誤認せしめざる樣取図ふ等、凡そ斯法の命する條項は嚴守し、依て公正敏速果敢なる成果を挙げ得る樣留意努力を爲さざるべからず、今若し然らずして自己の聖嚴なる地位を毫も自覚せず、委員会運営の自主能動性の活用義務を抛擲して、上敍計画基本事項の処理は挙げて之を一、二事務機関の專断に委ねんか、或は又一部不当勢力に圧倒せられ之に迎合し、公正果敢なる職務執行を孤疑逡巡するに至らんか利害関係人の怨搓葛藤手続の澁滯混乱底止する所を知らす委員会の威信地を拂ひ斯法の精神を躁躪し延て祖國の建を阻害し國際信義を愈〓失墜するに至らん。

今之を本件に付観するに被告等は昭和二十二年六月十九日被告六鄕村農地委員会が原告主張の土地を自作農創設特別措置法に依り、賣渡す旨の計画を樹立したる旨主張すれども、同被告等の提出に係る成立に爭なき乙第一、二号証(何れも訴願裁決にして其主文に「昭和二十二年七月二日第一次賣渡」なる文字あれども、其意全然不明今若し之を「同日附第一次賣渡計画」の趣旨に解せんか同日被告六鄕村農地委員会に於て、前記法律に依り、第一次賣渡計画なるものを作成せざりしこと檢証の結果に依り極めて明白なり)を以てするも右事実を肯認するに足らず却て

(一)  同被告事務所備付昭和二十二年度六鄕村農地委員会議録を点檢するに隨所に空白欄あり、同一項目の記載に於てすら猶其筆跡を別異にするもの尠からず、作成者の契印、訂正印、議事録署名者の署名捺印の如きは殆ど之を欠如し、其証裁概ね粗漏杜撰其公文書たるの方式を完備せず、形式的証明が薄弱なるのみならず、今少しく其内容に立入り、昭和二十二年六月十九日附議事録を査閲するに同村所在数十名所有水田を何人かに賣渡すべき旨一括協議に付したる旨の記載あるに止まり、同委員会は法定層の委員を以て構成せられたりや何人の耕作所有に係る田幾何を何人に買渡すべきや、其対價如何等凡そ計画の主要内容たる具体的項目に付ては之を提案審議したる趣旨の文字にも存せざること檢証の結果に徴し明白なる点。

(二)  証人木立一太郞、高木武雄の同被告委員会の委員たる同人等が、右会議に出席したるも敍上具体的事項の提案及審議全然無かりし旨の供述。

(三)  被告等が其存在の主張する本件賣渡計画に付ては、被告六鄕村農地委員会が毫も之が公告を爲さざりしこと証人津川三郞の供述及檢証の結果を綜合するに依り、之を肯認するに難からざる点。

(四)  昭和二十二年度に於ける同被告の自作農創設特別措置法に依る本件以外の土地買收又は賣渡計画に付ても同被告の一事務機関に過ぎず、且農民組合の役員を兼務せる者等が、計画委員会招集以前既に己に之が試案を專断作成して、其縱賢期間を公告し共後招集せられたる委員会に於ては、会長其他事務当局に於て各委員に審議に必要なる説明を爲さず協議資料を提供せず、從て祿々檢討論議の余地を與へず、凡そ試案通議定せられたるものとして処理進行したる消息は証人木立一太郞、高木武雄の各の各供述竝檢証及被告六鄕村農地委員会代表者黑瀧淸三本人訊問の各結果を綜合して之を推認するに難からざる点。

(五)  委員会の運営敍上の如く、粗略不完全なりしかは民衆特に小作層よりの非難轟々たるうちに昭和二十三年四月小作層及自作層選挙民の要求に依り小作層及自作層各委員を改選するの余儀なきに至りしこと被告村農地委員会代表者黑瀧淸三本人訊問の結果に徴し明瞭なる点。

(六)  別件原告津川喜右衞門被告六鄕村農地委員会間の当廰昭和二十三年(行)第一〇号土地買收計画不存在確認請求事件に付、昭和二十三年八月四日の口頭弁論に於て、被告六鄕村農地委員会が該原告の請求「原告所有別紙目録(省略)記載の田を買收する旨の昭和二十二年六月十九日附被告の自作農創設特別措置法に依る計画決定が存在せざることを確定す」を其儘認諾したること、当裁判所に顯著にして而かも該計画か本件計画と同一議会に於て議決せられたる旨前記会議録に記載せられあること檢証の結果徴し明白なる点。

等を彼此綜合考覈すれば、昭和二十二年六月十九日本件賣渡計画樹立の爲、眞実六鄕村農地委員会の招集せられたりや否やは不明なれども、仮に招集せられたるものとするも其構成如何、如何なる事項が如何なる方法に依り議決せられたるやは全然不明にして、少くとも本件賣渡計画が樹立せられたるものに非ざることを推認するに足り、而して被告等が右計画樹立を前提として、爾後の手続を追行せんとしつつあること被告等の認めて爭はざる所なるを以て、原告は右計画不存在に付即時確定を請求し得る法律上の利益あるものと謂ふべし。

次に被告靑森縣農地委員会に対する本訴請求の当否に付按するに、原告主張の如き訴願の提起及裁決ありたること同被告の認むる所たり、而して被告等主張の如き土地賣渡計画存在せざること前認定の如くなる以上、其存在を前提とする右裁決は当初より其支柱を欠如し、固より違法にして今之を取消すも毫も公共の福祉を阻害するものに非ざること、前段説明の趣旨に照し極めて明白なるを以て原告の本請求に行政事件訴訟特別法第十一條を適用して之を棄却すべき限に在らず。

仍て原告の本訴請求を全部理由ありと認め訴訟費用の負担に付同法第一條民事訴訟法第八十九條第九十二條第九十五條を各適用して主文の如く判決す。

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例